はい、という訳で今年の夏のお見舞いはこの三人になりました。
とにかく涼しい絵を!涼しい絵を!と思ったらヘルカラクセしか浮かびませんでした。
着膨れ感のある装備にそこはかとなく『皇国の守護者』の影響が(笑)
この三人は、それぞれヘルカラクセを渡る理由がちょっとずつ違う感じがしますね。
フィンロドはまだ見ぬ中つ国という大陸に自分の夢を託しているし、トゥアゴンは家族・一族郎党の意見に
従いつつ胸中に不満を隠し持っての参加だし、フィンゴンはそもそもの理由はフィンロドと同じだったとしても
この時点では某従兄弟に逢って一言問いたい、語り合いたいという気持ちが大きかったんではないかな。
そして親世代のフィンゴルフィンにも譲れない理由があって。
それぞれに自分だけの強い意思を胸中に抱えて、アマンを離れたフィンゴルフィン・フィナルフィン家一党。
その意思の発端が、受動的なものであれ能動的なものであれ、彼らの団結心、そして不屈の精神は
この氷海の決死行を通して一段と磨かれたのではないかと。
このくだりを読むにつけ、つくづくこの中つ国への望まれざる帰還はノルドールである彼らならではの
行為だったのだなあ、と思います。
…で。ここからが本題なんですよ。
なんと、『禁城 〜Forbidden City〜』のしゅうき様から小話を頂きました!やりぃ!
ではでは、上の絵はほったらかしでどうぞ皆様そちらをお楽しみください〜v v
『愛のヘルカラクセ物語』
「雪〜のヘルカラク〜セに〜
かが〜り〜火〜燃える〜♪
はし〜れトゥアゴンほ〜が〜ら〜かに
歌声高く〜♪」
(*ロシア民謡『トロイカ』のメロディで)
と、変な歌を歌いながら、親友で従兄弟のトゥアゴンに犬ぞりを引かせているのは、
フィナルフィンの長子フィンロドである。
「歌ってる場合じゃないよ!しかも、何で本来私が乗るべきところに犬が乗ってるんだ!」
「だって、まだ橇を引かせられるほど躾できてないし〜。」
と、言いながらフィンロドは、
『ねえトゥアゴ〜ンvまだまだ先は長いし寒いし〜、ちゃんとした移動手段があったほうが良くない?
犬ぞりやろうよ犬ぞり〜。』
とかワガママぶっこいてその辺から捕まえてきたオオカミ(犬ではない)を撫でた。
オオカミたちは既にフィンロドにメロメロで、彼のためなら犬ぞりの重労働も辞さない覚悟であった。
が、彼らは狡猾で腹黒い…もとい、頭の良いオオカミだったので、暫くその重責はトゥアゴンに任せる
ことに決めていた。
「はあ、こんなことなら先走って橇作るんじゃなかった…。」
「何事も長い眼で見なくちゃ駄目だよ、トゥアゴン。」
「いや、だからそもそも犬ぞりやろうっていったのは君…。いや、まあ、もういいや…。何もかも…。」
厳寒のヘルカラクセに来て以来、嫁はクレバスに落ちるは自分も死にかけるはで、お疲れ気味のトゥアゴン。
遠い眼で『もう死にたい…。』 とか呟いていることもしばしばだったが、そんな彼に
容赦なく橇を引かせているフィンロド。
血も涙も無い訳ではなく、何も考えていないだけである。
「ま、何にしてもこの吹雪じゃしばらく進めないよ。今日はここで野宿しようよ、野宿。」
「そうだね…。と言うか、今日どころか毎日野宿だけど。」
「毎日がサマースクールだと思えばいいじゃないv」
「サマー…?」
ボケっぱなしのフィンロドと寒気の所為で痛む頭を抑えながら、トゥアゴンはふとフィンロドの胸元に眼を留めた。
そこには、オオカミではない、何か別の白い生き物が抱えられている。
「フィンロド…。それ、何だい?」
「ああ、これ?白熊の赤ちゃんだよ!」
可愛いでしょ〜vv
と、言いながらフィンロドは白いムクムクの塊をトゥアゴンに押し付けた。
「小さいし可愛いしあったかいし〜。ついつい連れて来ちゃった〜vv」
黒くつぶらな瞳の小熊は、確かにぬいぐるみのように愛らしい。
愛らしいのだが。
だが。
「フィンロド…。連れて来たってコレ、母親は…。」
「グオオオオオ!!!(ここじゃいボケェ!!!)」
咆哮と共に吹雪の中から現れたのは、体長三メートルはあろうか、ノルドオル一の長身を誇るトゥアゴン
よりも遥かにデカい、母熊であった。
「ギャァァァァ!!!」
雪原に、トゥアゴンの悲鳴が響き渡る。
「ガァァ!!(この熊さらいが!!)」
「ヒィィィィ!ふぃ、フィンロド助けて!!」
この窮状を作り出した従兄弟に、トゥアゴンは当然の権利として助けを求めた。
が、フィンロド(と、オオカミたち)は忽然と消えていた。
いち早く危険を察したオオカミたちは、フィンロドを乗せて犬ぞりで走り去っていたのである。
「薄情者〜!!!」
情けなく叫ぶトゥアゴンめがけて、母熊の丸太のような腕が振り下ろされる。
「グァァァァ!!(ウチの子返せ!!)」
「キュィ〜…(ママ助けて〜)」
「誰でもいいから、助けて〜!!!」
その頃、エクセリオンとグロールフィンデルは。
「ん…?グロールフィンデル、今トゥアゴン様の悲鳴が聞こえなかったか?」
「幻聴ですよ、どうせ。最近疲れてますからね〜。」
「ま、それもそうか。」
「そんな事より、そっちのスコップ取って下さい。」
「ほら。…さっさとこの雪像完成させちゃわないとな。締め切り近いし。」
「う〜ん、どうもヒゲの感じが上手くいかないんですよ、このトゥルカス様像。」
「拘り過ぎなんだよ、お前は。適当にやっとけ、適当に。」
主君の危機を他所に、雪祭の最中だった。
更にその頃、フィンゴルフィンとフィンゴンとアレゼルは。
「ああ、今頃マエズロスはひとり火照る身体を持て余していることだろう…。
私のマエズロス〜vv直ぐに貴方の元に行くからなvv」
「兄様はそればっかりよね〜。愛されてる自覚があるっていいわよね。父様にはわからないでしょ?」
「そんなことはないぞ!今頃は兄上も殴る相手が居なくてイライラむしゃくしゃしているにちがいない!
それでつい船に放火を…。」
「アル=フェイニエル。父上は何気にマゾだからな。」
「ふうん。ていうか兄様、みかん取ってよ。」
「ほい。…っと、またいい具合に冷凍みかんになってるぞ。」
「旅って感じでいいよな。」
「ヘルカラクセの車窓からって感じよね〜。」
かまくらで一家団欒していたという。
その日のトゥアゴンの運命は誰も知らないが、彼が無事―心に傷は負ったかもしれないが―中つ国に
たどり着いたことは確かである。
おまけ
〜エクセリオンとグロールフィンデルとガラドリエル〜
「はあ、どうにか完成したな…。」
「締め切りに間に合ってよかったですよ。」
「おや、そなたたちも雪祭ですか?」
「これはこれは、フィナルフィン様のご息女の…。」
「アルタニス様。貴女も雪祭りに?」
「ほほ…。偶には庶民の娯楽に親しむのも良いかと。」
「で、何の像を作られたのです?」
「ええ、女王として君臨するわらわの像を。」
後にガラドリエルと呼ばれる彼女の野望が果たされるのは、更に数千年後のことである。
Paintgraphic
2006.8.15 配布
06.9.19 小話頂いちゃった